結婚式を挙げたくなかった彼女
遠距離恋愛していた彼と、結婚する事になった。
実家を離れ、まわりに友人もいない慣れない土地で彼と一緒に暮らし始めていたが、
結婚式を挙げるかどうか悩んでいた。
彼女には、高校時代の親友に、ブライダルフォトグラファーがいた。
籍だけ入れて、写真だけ残そうと考えていたが、彼の両親の強い希望で、結婚式を挙げる事になった。
彼女は言った。当日、結婚式を撮影してほしい。
ブライダルフォトグラファーの私は、もちろん、カメラ機材をもって喜んで駆け付けた。
とっても美人な親友。花嫁姿は、本当に楽しみだった。
彼女なりに悩んで決めた結婚式は、家族だけの結婚式。挙式後は、家族だけでお食事会をするそうだ。
でも、彼女自身、あまり乗り気ではない事も知っていた。
結婚式を挙げる場所、日取り、和装か洋装にするか等、色々決める事があって、
「面倒だから結婚式を挙げたくない!」と、泣きながら電話口で言う時もあった。
私は、彼女に言った。
「結婚式は、挙げたほうが良いよ。自分のためじゃなく、親のために。」
彼女は高校1年生の時、父親を亡くしていた。
お母さんが、女手一つで、彼女と弟さんを大学まで入れた。2人とも立派な社会人になり、弟さんは就職して東京にいる。彼女が実家を離れ、一人暮らしになったお母さん。「ウェディングドレス姿」を見せてあげたかった。
結婚式を挙げたくない彼女は、メイクもドレスも、あまりこだわる事なく、当日を迎えた。
参列者とフォトグラファー1人が見守る中、挙式が始まった。
彼女は、ケーキカット等のイベントを一切しない結婚式を希望していたが、彼女に、一つだけお願いをしておいた。
「お母さんへ、感謝の手紙は読んだら?」
最後に、育ててくれた感謝の手紙を読む彼女。
お父さんが亡くなってからの家族3人の寂しさが伝わってくる。
いつも気丈な、彼女のお母さんが涙した。彼女の弟さんが、ハンカチをそっと渡す。
私は涙を拭いながら、シャッターを押した。
彼女が読み終わり、お母さんに手紙を渡す。
結婚式に参列した全員が一体となり、心温まる瞬間となった。
最後に、新しい家族の記念撮影。全員が、心からの笑顔だった。
「わざわざ遠方まで撮影に来てくれて、本当にありがとう。」
そう言った彼女は、爽やかに言った。
電話口で「結婚式を挙げたくない!」と泣いていたのが嘘みたいだった。
1年後、弟さんが盛大に結婚式を挙げた。
「弟の披露宴でケーキカットをしたの。」と、彼女は嬉しそうに語った。
ケーキカットをしてない、姉夫婦へのサプライズ演出だったようだ。